最適な作業環境の構築に向けて(中川達也)
仕事の多くをパソコンで行う私にとって、作業環境を整え、業務効率を改善することは、仕事の質の向上や疲労の軽減にも影響する重要なテーマである。
私はガジェット好きということもあり、作業環境の改善や業務効率化について、これまで試行錯誤を重ねてきた。本コラムでは、私の現在の作業環境や各種設定、小さな工夫などの一端をご紹介することとしたい。思いつくまま書き連ねたものであり、網羅的な内容ではないが、1つでもお役に立つ情報があれば幸いである。
なお、アプリの設定等は、環境等により可否や方法が異なる場合もある。必要に応じて適宜お調べいただきたい。また、設定変更等は、あくまで自己責任でお願いする。
■PC
事務所のメインPCはWindowsのデスクトップを、自宅とモバイル用途にMacBook Airを使用している[1]。
以下ではWindowsを中心に述べるが、WindowsとMacの作業環境や設定をできるだけ統一することも、作業効率の改善につながる。
■モニター
○マルチモニター
マルチモニター(複数のモニターの同時使用)は、とにかくお勧めである。「別モニターで予定を確認しながら日程調整のメールに返信する」、「別モニターのブラウザの情報を起案中の文書にコピペする」など、マルチモニターの利便性は非常に高い。
できれば同機種のモニターを併用するのが望ましいが、必須ではない。ノートPCに外付けモニターを1枚つなぐだけでも作業効率は向上する。
私は24インチを3枚使用している[2]。正面がメインディスプレイで横置き、左右に横置きと縦置きを1枚ずつ設置している。
○縦置きのメリット
ウルトラワイドモニター派も多いが、マルチモニターには縦置きできるメリットがある(ただし、縦置き設置可のモニターを選択する必要がある。)。
弁護士は、準備書面、判決書、論文など、A4縦の書面を読む機会が多い。縦置きのモニターは、そうした書面の全体を表示できる。24インチであればオリジナルのA4サイズより大きく、1枚全体を容易に視認できる。
例えば準備書面を起案する際は、相手方の準備書面を縦置きモニターに表示して参照しながら、正面のメインディスプレイで自分の書面を起案していく。もう1枚は、ブラウザで法令や判例を調べたり、他の書証を表示したりと様々である。
○マルチモニターでの工夫
・Wordの場合
マルチモニター環境では、同じファイルを複数のモニターに同時に表示するのも便利である[3]。
例えばWordは、「表示」タブから「新しいウィンドウを開く」をクリックすると、同じファイルを同時に複数開くことができる。契約書をレビューする際も、同じファイルを2つ開いておけば、メインモニターで存続条項(「本契約の終了後も、第●条及び第▲条の規定は引き続き効力を有する」というような条文)を閲覧しながら、隣のモニターで対応する●条や▲条を順次確認するというような作業が可能となる。
あくまで同じファイルであるから、一方の画面で入力すれば、他方にも即時に反映される。
後述するとおり、「新しいウィンドウを開く」は、クイックアクセスツールバーに登録しておくと、より便利である。
・Acrobatの場合
Acrobat(Readerも含む)も同様に、同じPDFファイルを同時に複数開くことができる(新規ウィンドウ)。
例えば本文中に「別紙のとおり、・・・」とある書類も、同時に複数開いておけば、末尾の別紙を参照しながら同時に本文を読むことができる。「参照先のページに移動した後、元のページに戻る」という手間も省ける。
私は、複数のPDFを複数のモニターで表示したいため、Acrobatで複数の文書を開く際は「新しいタブとして」ではなく別ウィンドウで開く設定にしている。好みの問題だが、「新しいAcrobat」は無効にしている。
・タスクバーの設定
マルチモニター環境ではタスクバーの領域も横に十分広いため、Windowsの「タスクバーの設定」で、タスクバーのボタンはまとめない設定としている(「タスクバーに入りきらない場合」を選択)。これにより、現在開いているファイル名をタスクバー上で一覧でき、すぐに選択できる。
■入力環境
大量に文字を入力する法律家にとって、入力環境も重要である。
○キーボード
キーボードは各人で好みが分かれると思うが、私はREALFORCEのテンキーレスモデルを利用している。自宅のMacBookも同様である。世間の評判どおり打鍵感は「スコスコ」という感じで、入力していて非常に心地よい。
○リストレスト(パームレスト)
リストレストはFILCOの木製ものを使用している。適度な硬さがあり、感触も快適で、長時間使用してもストレスがない。ただし、リストレストはキーボードの高さとのバランスが重要である。異なるキーボードの場合は同じ快適さが得られるとは限らないため、ご注意いただきたい。
○マウス
ポインターのスピードやホイールのスクロール量は、初期設定のままにせず、自身の最適値に設定することをお勧めする。特にモニターが3枚もあると、ポインターの遅さはストレスになる。スピードを上げると最初はとまどうが、すぐ慣れるだろう。
ちなみに、PDFやWord等の表示倍率の拡大、縮小は、Ctrlキーを押しながらマウスのホイールを上下することで簡単に行える。表示倍率を手入力したり、「+」「-」キーを何度もクリックしたりするよりも、スムーズに拡大、縮小が可能である。ただし、Googleドキュメント等では、当該ファイルだけでなく、ブラウザ全体が拡大、縮小されてしまう。
私はロジクールのMX Master 3Sを使用している。特筆すべきは超高速スクロールホイールで、一度使うと便利で手放せない。
トラックボール派も多いが、私にはあわなかった。好みの問題もあるだろう。
○椅子
可能であれば、高さ調節が可能な肘掛け付きの椅子をお勧めする。肘掛けと机の高さを揃えることで、肘、手首、指をストレスなく配置でき、長時間入力による負担を低減できる。
■カメラ
Windows Helloの顔認識機能に対応したカメラを使うと毎回のサインインが楽である。
Web会議では、目線とカメラの位置が水平近くになる高さが推奨される。そのため外付けモニターの場合は正面のモニター上にカメラを設置することも多いと思うが、フレームレスのモニターの場合、表示領域に干渉することがある。私はフレキシブルアームスタンドを利用して干渉を避けている。
■各種設定、サービス等
○リボン、クイックアクセスツールバー
Word等のOffice製品は、頻繁に使用する機能を「クイックアクセスツールバー」に登録し、「リボン」は普段は折りたたんでおくことで、作業領域を広く確保できる。
例えば、Wordの「ホーム」タブの左下にあるブラシマークのアイコン(書式のコピー/貼り付け)上で右クリックし、「クイックアクセスツールバーに追加」を選択すると、クイックアクセスツールバーに追加される[4]。同様に「表示」タブの「新しいウィンドウを開く」や、「校閲」タブの「新しいコメント」等も追加しておくと、タブを開いたり、異なるタブの間を行き来したりすることなく、クイックアクセスツールバーだけで多くの作業を完結できる。
デフォルトでは不要な機能がクイックアクセスツールバーに登録されているため、適宜入れ替えて、自分向けにカスタマイズすることをお勧めする[5]。
なお、私は、クイックアクセスツールバーはリボンの「下に」表示している。
○日本語と英数の入力切り替えキー
Windowsでは、日本語と英数の入力の切り替えを左上の「半角/全額」キーで行うのがデフォルトである。しかし、頻繁に使用するキーにもかかわらず、ホームポジションから遠く、不便である。Macのようにスペースキーの左右のキーで切り替える方が便利であるため、私はWindowsでも「変換」を「日本語」に、「無変換」を「英数」に割り当てている[6]。
○クリップボード履歴
クリップボード履歴機能もお勧めである。パソコンの作業ではコピー&ペーストを頻繁に利用するが、直前にコピーした情報だけでなく、過去にコピーした情報も遡ってペーストできる。こちらは一度使うと利便性を実感できると思う。
現在はWindowsの標準機能でも利用できるが(「Windows ロゴ」+「V」)、私はCliborというアプリを長年利用している。Macにも同様のアプリがあり、ショートカットキーを共通にしておけば作業環境も統一できる。
○単語登録
よく使う単語はもちろん、変換ミスを防ぎたい単語も、予め登録しておくと便利である。
例えば「映画製作者」(著作権法2条1項10号)という単語の場合、単語登録していなくても「映画」、「製作者」と順次変換することで変換できるが、その場合「映画制作者」と変換ミスしてしまう可能性がある。読みを「えいがせいさくしゃ」として「映画製作者」をそのまま単語登録しておくことで、こうしたミスを減らすことができる。また、「えいがせいさくしゃ」と入力した場合に変換候補として「映画制作者」が示される場合は、予め辞書から削除しておくことも有効である[7]。
○日本語入力(IME)
私はWordを主に利用しているが、日本語入力はATOK(ATOK Passport)を使用している。Mac版もあり、単語登録もクラウドを通じて各端末に同期される。
WindowsでMS-IME以外の日本語入力を使っている場合、「Ctrl」+「Shift」で日本語入力が切り替わるのは面倒である(タイプ中に意図せず切り替わることがある。)。このショートカットはWindowsの設定を変更して無効化できる。
ATOKプレミアムでは「ATOKクラウド辞典サービス」が利用できる。利用可能な辞書には広辞苑も含まれる(WindowsとMacの両方で利用できる。)。広辞苑を引く機会は意外と多い。例えば、ある単語を用いた表現について名誉毀損の成否が争われるケースでは、広辞苑等の辞書を援用して当該単語の「一般の読者の普通の注意と読み方」を立証したりする。著作権法30条の4の「享受」の意義については、文化庁の資料も広辞苑を引きながら解説している[8]。適宜他の辞書も引かれるが、あくまで私見であるが、広辞苑が第一選択であるように思う。PC作業中に一瞬で広辞苑を参照できるのは便利である。
○六法
e-Govの法令検索をメインで利用している。その際、Chromeの拡張機能である「e-Gov HIGH」と「e-Gov AmiAmi」が便利である[9]。前者は指定条文を入力するとジャンプでき、後者は条文の括弧内を網掛けできるため読みやすくなる。
サブとして、m-Lawsの模範六法システムを利用している。こちらは有料であるが、不案内な分野で参照条文や判例要旨が確認できるのは、やはり助かる。括弧内の網掛けも施されている。
以上、思いつくままに書き連ねてきた。生成AIを活用した業務効率化にも大いに関心があるのだが、未だ試行錯誤中であり、また進歩も早く、こうして公表できるものはない。どなたか法律関係者の方がまとめてくれないだろうかと期待しているところである。
[1] あくまで主観であるが、Word等のOfficeソフトはWindowsの方が使いやすいため、メインPCはWindowsにしている。他方、バッテリー等の点でMacBook(M1以降)が優れているほか、iPhone等のApple製品との連携も便利であり、WindowsとMacを併用している。
[2] いずれも24.1型(1920×1200)である。WUXGA(1920×1200)は、Full HD(1920×1080)と比較して縦(縦置きの場合は横)に若干広く、好んで使用している。
[3] 表示領域は狭まるが、モニター1枚の場合も画面分割により同様の操作が可能である。
[4] なお、「書式のコピー/貼り付け」はショートカットキーでも利用できる。
[5] クイックアクセスツールバー上で右クリックして「クイックアクセスツールバーのユーザー設定」に進むと一括でカスタマイズできる。
[6] 「MS-IME」の場合、オプション設定で実施可能となったようである(筆者未検証)。ATOKの場合は、「プロパティ(環境設定)」→「キー・ローマ字・色」タブ→「キーカスタマイズ」ボタンで、左下の「キー」を選択し、右上の「キーを検索」ボタンを押した後、まず「変換」キーを押すと、同キーに現在割り当てられている機能一覧が表示される。そのうち「文字未入力」の箇所をダブルクリックすると、変更できる機能の候補一覧が表示されるため、「日本語入力ON」を選択し、「OK」ボタンを押すことで、設定を変更できる。同様に、「無変換」キーには「日本語入力OFF」を割り当てる。
[7] ATOKの場合、削除方法は以下参照。私は「II 変換時に削除する方法」を用いている。https://support.justsystems.com/faq/1032/app/servlet/qadoc?QID=015036
[8] 文化審議会著作権分科会法制度小委員会「AIと著作権に関する考え方について」(令和 6年3月15日)10頁
[9] 弁護士のオリガ・ベロスルドヴァ先生による拡張機能。