知的財産法制研究センター設立の目的

 上村教授を拠点リーダーとする本COEプログラムの問題意識は、欧米型制度の現状と問題点を追求し、 真に安定的な日本の企業法制を構築するという点にある。そこで、知的財産法制研究センターでは、 かかる問題意識に答えるため、現在主流の官僚主導型の政策立案から、独立した民間の立場から政策提言を行いうる研究組織を形成し、 わが国の知的財産法制の適正な発展を企図するという思い入れから、様々な企画を設定していく。 国家レベルの政策論議に真正面から参加するためには、単に官僚主導で立案された政策を検証するだけではなく、 十分な調査と研究に裏付けられたアカデミズムの立場から、国家の政策決定において無視し得ない一定の政策提言(法システムの創造)を積極的に行っていくことが課題となる。 本センターが設定している人的な国際的ネットワークの構築や、世界的レベルでの紛争処理・判例の検索システムの構築、知的財産紛争の処理といった企画は、 調査研究の成果物であるとともに、この課題に対する手段としても位置づけられる。

 制度の基本構造に遡った歴史的・哲学的研究も、近時、法変動の著しい知的財産法の分野において、 時流に踊らされないアカデミズムの立場から知的財産制度を超然と論じていくための手段として必要となる。 また、他の大学や様々な組織・団体の方々を研究グループに招聘することは、他の大学組織の貴重な智慧や、 現実実務の一線で活躍する智慧とを結集し、本学を拠点としてはぐくまれるアカデミズムの研究成果を、 本学以外の大学組織や現実の社会においても尊重されるものとして、学外へと還元していくために、必要不可欠な前提である。 今後、本学からの法曹排出の主体となる大学院法務研究科(早稲田大学ロースクール)における知的財産関係者育成部門とも連携が必要となるだろう。 以上のような点を基礎に、アカデミズムの立場から政策提言を実現するという企図を、COE企画5年間の間に実際にどのように具体的に実現していくのか、それが本企画の目的となる。

企画の概観

(1)部門
 本センターの企画は大きく分けて三つの部門からなる。 第一は、日本を含むアジア地域の知的財産紛争事例(判例)の英文データベースの構築である。データベース構築のためには、 各国の学者・実務者とネットワークを構築して、紛争事例の集積と英訳を協働していかなくてならない。 そして、このデータベースを既存の西欧知的財産紛争事例データベースと合体させることによって、第二の部門として、 世界中の学者・実務者と共通地盤にたった知的財産分野における共同研究を推進すると共に、その過程で、わが国ばかりではなく、 アジア諸国において知的財産に精通した若手研究者を育成していく。さらに第一及び第二部門の成果を踏まえて、第三の部門として、 独立系シンクタンクの立場で様々な知的財産に関する政策提言をしていくことになる。その意味で、紛争事例英文データベースの構築と、 共同研究の推進・若手研究者の育成、政策提言の三部門は、独立した部門であると同時に、三位一体のものとして位置づけられる。

(2)知的財産法制研究センター
 本センターの構成員は、コア内部メンバーと外部メンバーからなる。コア内部メンバーは、 各部門の企画遂行の実働部隊であり、教員5名と助手1名、RA(研究補助者:research assistant)4名の合計10名で構成される。 外部メンバーはいわばアドバイザリースタッフとして位置づけられ、各企画へ、可能な限り参加し、補助することが期待されている。 現在、他大学の教員、各種団体の構成員などから6名の方にお願いをしている。構成員全員の会合は原則的に月1回のペースで開かれるが、 この会合自体は、研究者が集まって研究の成果を発表する場ではなく、本センターの活動状況の報告、各企画の方向性の点検・検証、 新企画採否の決定などを行う、いわゆる企画会議として位置づけられている。