ピーターパン法

 永久著作権は、著作権者の永遠の夢である。しかし、これを一般に認めれば、文化の発展の息の根を止めることになるだろう。 著作権は一定の時期がくれば消滅し、それによって、後の世代の糧となるために、文化は発展するのである。 ところが、「男を女に、女を男に変える以外は何でもできる」といわれ、万能の権限を有するとされる英国議会には、永久著作権を認めた立法例がある。 スコットランド生まれの劇作家ジェームズ・バリー卿は、戯曲『ピーターパン』(『大人になろうとしなかった少年』)の作者である。 1929年、ジェームズ・バリー卿は、『ピーターパン』から得られるロイヤリティのすべてを、ロンドンにあるグレートオーモンドストリート小児病院に寄付することとした。 バリー卿は1937年に亡くなった。当時の英国では、著作者の死後50年までの保護が与えられていた。 そのため、バリー卿の戯曲『ピーターパン』の著作権は、1987年12月31日に消滅した。著作権は、消滅時に、小児病院の受託者に与えられた。
  こうした状況の下、1988年、英国議会は、英国著作権法第301条に新たな規定を設けた。 この規定は、小児病院の受託者が、1989年8月1日以後に行われるジェームズ・バリー卿の戯曲『ピーターパン』を用いた公の実演や、 商業的発行、放送、有線番組への使用について引き続き「使用料」を得ることができるとする。バリー卿の遺志は、 小児病院がなくなるか議会がこの規定を廃止しない限り、英国著作権法制度の中で永久に守られることになった。
  この立法は、英国議会の粋な計らいというべきである。法律の中に『ピーターパン』というコトバが出てくるのも面白い。 なお、我が国において、これと類似の立法が可能かどうか考えた場合、憲法上国会が行い得る「立法」の範囲に属するのかという観点から、 理論的には難しいと言わざるをえないだろう。


早稲田大学助手 今村哲也 (2005/4/25 update)